段ボールの山に囲まれた、新しい家のリビング。荷ほどきの合間に、ふと手が止まる。前の家で使っていた、英語教室のバッグ。中には最後のレッスンで先生からもらった、小さなメッセージカード。「See you again!」——もう会えないのに。
転勤が決まってから引っ越しまで、あっという間でした。通っていた英語教室も、仲良しの先生も、一緒に通っていたお友達も、全部が一度になくなった。子供は、最後の日に泣きました。私も、泣きそうになるのをこらえて、先生に頭を下げました。
そして、引っ越して3ヶ月。新しい土地で教室を探そう、と思いながら、検索画面を開いては閉じる日々。学校の手続き、役所、病院、スーパーの場所、新しいママ友。生活を立て直すだけで精一杯で、習い事は全部止まったまま。「また一から探すのか」と思うと、それだけで重い。そんなご相談を、私は何度もいただいてきました。
まず、お伝えしたいことがあります。3ヶ月止まったことを、責めなくていい。あなたは怠けていたのではなく、家族の生活そのものを、一から組み立て直していたのです。それは、どんな習い事よりも大きな仕事でした。
引っ越しで失ったのは「教室」であって、「子供の英語」ではありません
「全部なくなった」と感じている今、ひとつだけ分けて考えてほしいことがあります。なくなったのは、教室です。先生です。通っていた場所です。でも、お子さんの中に入った英語は、どこにも行っていません。
耳が覚えた音、口が覚えた文、先生と笑った記憶。それらは段ボールに詰めて置いてきたものではなく、お子さんの体ごと、この新しい家に運ばれてきています。3ヶ月の間、表に出る機会がなかっただけです。
もちろん、止まっていれば、少しは忘れます。それは自然なことで、恐れることではありません。忘れることと戻ることの関係は、子供が英語を忘れるのは自然なこと|同じ母親として「維持」の話をしますに書きましたが、一度体に入ったものは、再開すれば思ったより早く戻ってきます。ゼロからではなく、途中からです。止まった期間は、取り戻せます。
「また一から」が重いのは、前の教室と比べているからです
引っ越し先で習い事の再開が進まないご家庭には、ある共通点があります。それは、「前の教室と同じもの」を探していることです。あの先生みたいに優しくて、あの教室みたいに家から近くて、あのお友達みたいに仲良くなれる子がいて。そう思って探すと、どこを見ても「違う」ところばかりが目につく。比べれば比べるほど、決められなくなる。
私自身、アメリカに渡ったばかりの頃、前にいた場所と何もかもを比べて、新しい場所をなかなか好きになれずにいた時期があります。「また一から」が重いのは、探すのが大変だからというより、前の教室への気持ちがまだ残っているからかもしれません。「あそこがよかった」と思う気持ちがあるうちは、新しい場所はどこも、代わりに見えてしまいます。それは、お子さんも同じです。
だからこれは、教室探しの問題である前に、お別れの問題なのだと思います。前の先生に「ありがとう」と言えたなら、それでもう、前の教室の役目は終わっています。あの教室があったから、今のお子さんの英語がある。次の場所は、あの教室の代わりではなく、あの教室の続きです。
今日からできる小さなこと
ひとつめは、「前の教室と同じもの」を探すのを、やめてみることです。代わりに、「前の教室で、いちばんよかったのは何だったか」を、ひとつだけ言葉にしてみてください。「先生が毎回名前を呼んでくれた」「毎回続きからやってくれた」「宿題が少なくて続けやすかった」。その一つだけを、次の場所を選ぶ基準にする。全部を満たす場所を探すと決められませんが、一つなら見つかります。
ふたつめは、再開の初回を「続きから」ではなく「慣らし」と割り切ることです。3ヶ月ぶりの英語で、以前のように話せなくても、それは当たり前です。お子さんにも、先に伝えておいてください。「久しぶりだから、今日は思い出す日だよ。前みたいにできなくても大丈夫」。そして終わったあとは、「また座れたね。それがいちばんすごい」。できたかどうかではなく、戻ってきたことを、まず一緒に喜んでください。二回目、三回目と、前の感覚は自然に戻ってきます。
再開の心構えは、以前子供の英会話、ブランクからの再開|同じ母親として、「もう一度」を選ぶ勇気を応援しますにも書きました。引っ越しによるお休みは、その中でもいちばん、お子さんに責任のないお休みです。
ひとつだけ、事実としてお伝えしておきます。あい子供英会話はオンライン専門なので、引っ越しをしても、教室も先生たちも、レッスンの時間帯も変わりません。引き継ぎの仕組みがあるので、どの先生でも前回の続きから始められます。転勤の多いご家庭が、引っ越しのたびに教室探しをしなくて済むように、と選んでくださることも少なくありません。土地が変わっても、続きから。それだけです。
段ボールの中からメッセージカードを見つけて、手が止まったあなたへ。そのカードは、捨てなくていい。新しい家の、見えるところに貼ってあげてください。前の先生の「See you again」は、もう会えない別れの言葉ではなく、「英語で、また会おうね」という約束だったのだと、私は思います。
「また一から」ではありません。「ここから、続き」です。新しい土地で、生活を立て直しながら、この子の英語も一緒に立て直していきましょう。一人で全部を組み立てなくて大丈夫です。